Inishi-e Vineyard Story
生きものと共生する畑でつくる、ぶどうが美味しくなる
山形県東根にある、いにしえのぶどう畑。
ここでは、生きものを排除して作物を守るのではなく、さまざまな命と共にある環境の中でぶどうを育てています。
草花は30〜40種類ほど。そこに微生物、昆虫、両生類、爬虫類、鳥、獣など、多様な生きものたちが関わり合い、一つの生態系を形づくっています。
私たちは、この複雑で豊かな関係性こそが、ぶどうの香りや味わいを深くしているのではないかと考えています。
目指しているのは、ただ収穫するための畑ではありません。
命を排除することで成り立つ畑ではなく、命と共にあることで、より美味しい作物が育つ畑です。
やればやるほど自然が豊かになる農業。
だからこそ、飲むほどに自然が豊かになる。
そんな仕組みを、この畑から育てています。
共生を感じる瞬間
この畑で「共生している」と感じるのは、いろいろな生きものの気配があるのに、どこか穏やかな雰囲気が流れている時です。
作物が食べられてしまうのではないか、攻撃されるのではないか、そんな警戒心ばかりが立つ空気ではありません。
もちろん人間側の感じ方でもあると思いますが、それでもなお、この畑にはどこか落ち着いた気配があります。
たくさんの生きものが目に見えているわけではありません。
けれど、確かに気配はある。存在がある。そう感じられます。
足元にはさまざまな草花が育ち、それぞれがいきいきとしている。
音も穏やかで、虫や鳥の鳴き声が重なり合って聞こえる。
匂いも心地よい。
そうした多様性の重なりの中に、共生の実感があります。
多様な生きものたちが、緊張だけではなく、どこか穏やかな空気の中で関わり合っている。
その気配こそが、この畑の豊かさだと感じています。
ぶどうの味をつくる「二次代謝」
私たちは、ぶどうの香りや味わいの複雑さに、植物の「二次代謝」が深く関わっていると考えています。
植物には、生きるためだけなら必要のない生成物があります。
けれど、その“生きるために必須ではないもの”が、今までにない香りや食味を生み出しているのではないか。そう感じています。
さらに植物には、ほかの生きものに食べてもらうことで種を遠くへ運び、生息範囲を広げるという戦略的な本能があると考えています。
もしそうであれば、果実は「食べたい」と思われるために、美味しくなろうとしているはずです。
他の植物、微生物、虫、両生類、鳥、獣。
協力し、敵対し、距離を置きながら、複雑な関係性が生まれる。
その関係性が豊かであるほど、植物の本能や二次代謝もより豊かに発揮され、見た目も味わいも魅力的な果実になっていくのではないか。
私たちはそう考えています。
いにしえのワインの背景にある考え方は、 ナチュラルワインとは? のページでも詳しくご紹介しています。
生きものが栄養を循環させる
生きものが多様に訪れるということは、そこに死骸も残るということです。
それらは複雑で多様な栄養分となり、さらに多様な微生物が分解することで、化学肥料だけではまかなえない栄養素も供給されていると考えています。
そうした複雑な循環が土壌を豊かにし、ぶどうの食味を上げることにも貢献している。
畑の味わいは、土の中の目に見えない関係性にも支えられているのだと思います。
一般的な畑との違い
一般的な農業では、農薬や虫除けネット、防鳥ネット、忌避剤などによって、生きものを排除する方向で管理されることが少なくありません。
また下草には除草剤が使われたり、果樹園では除草剤の使用が減ってきたとしても、頻繁な草刈りによって草の種類が極端に少なくなっていることがあります。
その結果、生きものがとても少ない畑になっていることも多いと感じます。
化学肥料を使えば、土壌の微生物も生息しにくくなり、減退していく可能性があります。
一方、いにしえの畑では、草花の種類が30〜40種ほどあり、そこに棲みつく微生物もそれに比例して多様であるはずだと考えています。
多様な草食昆虫がいて、それを狙う肉食昆虫もいる。さらに爬虫類、両生類、鳥、獣も行き交う。そんな開かれた畑です。
防鳥ネットもなく、虫除けもしていません。
畑の外からもたくさんの生きものが入ってくる環境です。
土壌は耕していません。草花を抜くこともありません。
畑に入る回数もコントロールすることで踏み固めを減らしています。
だからこそ、空気や水の通り道があり、虫や微生物の棲み家も多い、複雑な土壌環境が保たれているのではないかと考えています。
こうした背景は、 自然栽培とは? のページにもつながっています。
草刈りは「間引き」
いにしえの畑では、草刈りの目的は草をなくすことではありません。
作業をしやすくするためだけに、きれいに刈り込むことでもありません。
草刈りは、草の種類を増やすための「間引き」です。
旺盛な草や単一化しやすい草を間引きし、ほかの草が芽吹きやすくなるようにする。
それによって、草花の多様性を育てています。
排水が悪いところには、ドリルで縦穴をあけ、空気と水の入れ替えが起こりやすいようにしています。
また、大勢のスタッフが何度も畑に入ることを避け、土壌を踏み固めないようにも配慮しています。
風の流れも自然に滞りなく通したいので、剪定や草刈りで調整しています。
畑を制御するというより、生きものたちが過ごしやすい環境を整える感覚に近いかもしれません。
いただかない命を、できるだけ奪わない
食べものをつくる産業である農業において、私たちは、いただく命は食べものとしていただきます。
けれど、邪魔だから、害を及ぼすからという理由で、いただかない命まで殺生することは避けたいと考えています。
そのための仕組みを、農業のあり方や日々の作業の中に組み込みたい。
そしてそれは、スタッフの心得としても浸透させたいと考えています。
「いただきます」を、食べる命だけでなく、自然全体に対して思えるような文化を育てていきたい。
この畑には、そんな願いも込められています。
鳥に食べられてもいい
この畑では、防鳥ネットを張っていないため、鳥にぶどうを食べられることがあります。
正確には計測できていませんが、おそらく3〜5%ほどです。
けれど、それが計算できる範囲であれば問題ないと考えています。
なぜなら、私たちは反収だけを目標にしているわけではないからです。
鳥が畑に来ることで、害虫と呼ばれてしまう虫たちにとっても、この畑は「食べられてしまう場所」になります。
つまり安息の地ではなくなり、繁殖の偏りも抑えられるかもしれません。
だから、鳥に食べられる分は、生態系を保ってもらうための報酬だと思えば安い。
私たちはそう捉えています。
虫が食べたり、病気を発症する房もあります。
ですが、それも大量発生していないので、取り除いたり、そのまま放置したりしながら見ています。
多様な生きものたちの関係性の中で偏りが少なくなれば、大発生しにくく、起きても収束しやすいと考えているからです。
自然以上の生態系を畑に宿す。
そんな感覚で、環境整備を行っています。
畑に現れる生きものたち
この畑では、季節によって登場する生きものが大きく変わります。
一年の中で、これだけ入れ替わるのかと思うほどです。
- 日本カモシカ
- たぬき
- ハクビシン
- イノシシ
- キジ
- モズ
- ヒヨドリ
- カッコウ
- 猛禽類
- カエル
- 蛇
- ネズミ
- 蜘蛛
- アシナガバチ
- スズメバチ
アシナガバチの巣を見つけたら、巣箱を用意してそこへ移し、畑に戻すこともあります。
そうすることで、芋虫を捕食してくれる存在として共にいてもらえるからです。
また、畑のエリアには高い木が少ないため、猛禽類の止まり木を用意しました。
すると、実際にネズミを捕食する姿を見たこともあります。
イノシシが土を掘り返していくこともありますが、それは土が固められた場所や水が溜まりやすいところであることも多く、もしかすると土壌の状態を良くしてくれているのではないかと感じ、あえてそのままにすることもあります。
生きものたちを排除するのではなく、どう関係を結ぶか。
この畑では、その問いを実際の風景の中で学び続けています。
活気に満ちた畑
この畑に入ると、五感さまざまに心地よさがあります。
音
草丈がばらばらなので、風が入り込んだ時の擦れ合う音が和音のように聞こえたり、緩やかなリズムのように感じられたりします。
鳥や虫の鳴き声も、耳を澄ますほどに多様に感じられ、日々違う表情があります。
光景
草花の揺れ方も多様で、これもまた和音のような心地よさがあります。
光の入り方も日によって違い、木漏れ日のような日もあれば、強い日差しを和らげてくれているようで過ごしやすく感じます。
触覚
草花やぶどうの木々が風を受け止め、やわらかくしてから皮膚に届けてくれるような感覚があります。
足元からは土の柔らかさや、折り重なった草花のふかふかな感触が伝わってきます。
香り
草花の香りはとても繊細で、意識しないと感じられないこともあります。
けれど、土から湧き上がる発酵したような香りや、草が放つ香りを歩きながら感じることがあります。
収穫時期が近づくと、ぶどうが発する甘い香りが広がり、収穫の時期を知らせてくれているようにも思えます。
味覚
収穫期が近づくと、ぶどうを食べながら畑を歩くことがあります。
木ごとに味が違い、酸味の良さ、甘味の良さ、皮が出す刺激など、今の状態を知ることができる幸せな時間です。
収穫期になると食べに来る動物も増え、その活気がまた心地よい。
それ以前の時期でも、現れる生きものが移り変わっていくこと自体に、一年を通じた豊かなリズムがあります。
仮説を総括して言えば、心地よさの正体は「活気」に尽きる。
多様な命が重なり合う、その和音のような活気が、この畑の心地よさを生み出しているのだと思います。
ハイパーソニックエフェクトや、フェロモンや、周波数のようなもの。
さまざまな生きものが発している要素があるのかもしれません。
しかもそれは単一ではなく、多様性の和音のように重なっている。だから心地よいのだと思います。
もう一つ、生きものが生きるために、ほかの生きものを食べる。
その時に生まれる「また今日も生きられる」という幸福感や恍惚感、安心感が、フォトンのような気を生み出していて、それを私たちが何気なく受け取っているのではないか。そんなふうに感じています。
生きものたちが、幸せを感じているのかもしれません。
農業のベクトルを逆転させる
これまでの農業は、ほかの生きものを排除することで、良い作物を得ることを目指してきた面があります。
けれど私たちは、そのベクトルを逆転させたいと考えています。
生きものを大切にすることで、より美味しい作物が得られる。
それが、私たちの試みです。
しかもそこには、副産物のようなもの、棚ぼたのようなメリット、思いもよらなかった良いことがあります。
やればやるほど自然が豊かになる農業。
だからこそ、飲むほどに自然が豊かになる。そんな仕組みをつくりたいと考えています。
しかも、ぶどうの木たち自身が、私たちが「食べたい」と思うくらい美味しくなろうとしてくれている。
そんなふうに感じられる畑です。
私たちの食べもののほとんどは生きものです。
その命をいただくことで、私たちは命をつないでいます。
だからこそ、生きものの総和である自然と寄り添い、その流れに合わせて農業を行うことは、この地球で生きるための賢い選択だと思っています。
食べる人にも、飲む人にも、そのことに気づいてもらえたら嬉しい。
そして、その選択肢を商品として提供したい。
皆さんは、食べるだけでいい。飲むだけでいい。選ぶだけで、自然を豊かにすることに貢献している。
そんなふうに簡単に参加できる商品づくりを、私たちは目指しています。
食と体の関係については、 体にいい食事とは? のページもあわせてご覧ください。
命を大切にする文化を育てたい
命を大切にする文化を育てたい。
だからこの農業を追求し、そこからできる作物を商品にして、継続して取り組んでいきます。
生きものを排除するのではなく、生きものと共に育つ畑から生まれるぶどう。
その味わいの奥にある風景まで、ぜひ感じていただけたら嬉しいです。
この畑から生まれた、いにしえのワインをぜひご覧ください。
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