Inishi-e Future of Farming
食べものは、本来、自然の中に実っている。
― 100年後、食材の半分は自然から ―
私は、100年後の農業は今の半分ほどになっているのが理想だと考えています。
その代わりに、食材の半分は近くの里山や自然の中からいただく。自然を豊かにすると、そこに食べものが実り、それを人がいただく。そんな社会です。
農業自体がなくなるわけではありません。主食のように安定供給が必要なものは農業が担い、果実や野草、野菜のような副菜は自然の中からいただく。
自然の恵みと農業の恵み、その両方が食卓に並ぶ未来を思い描いています。
これは昔に戻る話ではありません。
技術や文化が進化した先に、自然の中にある食の力をもう一度見つめ直し、人の暮らしの中に編み込んでいく。そんな未来の食と農のあり方について考えています。
自然の中に食材があるという発想
以前、バヌアツの大使公邸付きの料理人の方から、こんな話を聞きました。
果物は近くにたくさん実るので、わざわざ栽培することはほとんどない。
野菜も山や自然の中から採ってきたものを販売している。
つまり、食材の多くは島の中に「なっている」のです。
これは昔の姿かもしれません。けれど私は、技術や文化が進化していけば、むしろ未来はそこに近づいていくのではないかと思っています。
いま私たちが食べている野菜や穀物、果実は、品種改良によって可食部分が増え、味も良くなり、効率の良い食べ物へと進化してきました。
その一方で、世界の食料はごく限られた作物に依存しています。例えば小麦、米、トウモロコシの3つだけで、世界のカロリーの半分以上を支えています。
本来、地球にはもっと多様な食べものがあるはずです。
農業でしか得られないもの。自然の恵みとしていただけるもの。
その違いを研究していくことで、今とは違う未来が開けると考えています。
自然を作るのではなく、人の領域を変える
自然を豊かにするために必要なのは、自然を変えることではありません。
むしろ、変えるべきなのは人の領域です。
道路、河川、山林、都市。私たちは長い時間をかけて、自然の中に自分たちの領域を広げてきました。
それを少しずつ引き上げ、自然のリズムに適合する社会に変えていく。自然は本来、自ら回復しようとする力を持っています。私たちがやるべきことは、その力が発揮される余白をつくることです。
そうした環境が整えば、その中に私たちの食べものが育つ領域も生まれてくるのではないかと思います。
自然は自ら回復しようとする。
私たちは、その力が発揮される余白をつくる。
採って、調理して、食べる
未来では、採って、調理して、食べる。
この一連の流れが、生活の中に戻ってくるのではないかと思っています。
それは不便な暮らしではありません。むしろそれが豊かさとして感じられる社会です。
いま「地産地消」や「自給自足」という言葉がありますが、これらはどちらかと言えば、環境問題や食料問題といった負の側面から必要性が語られてきた概念だと思います。
しかし私が思い描いている未来は、豊かな食文化が発展した結果として、その形に近づいていく社会です。
これまでの食の議論は、どうしても「人にとってどうか」という視点が中心でした。ですが私たちが提唱しているのは、あらゆる生きものとの共生であり、自然の一部としての人間のあり方です。
未来の食卓
例えば春。里山には山菜が芽吹き、木々には若い果実が実りはじめます。
夏には果菜類や葉物が育ち、川にかかる木陰から虫が水面に落ち、それを魚が食べる。
秋になれば穀物や木の実、きのこが実り、森の恵みが食卓に並ぶ。
冬には保存した穀物や漬物をいただく。
春には山菜、夏には果菜類や葉物、秋には穀物や木の実、きのこ、冬には保存した穀物や漬物。
それぞれの季節の食材を、それぞれの食べ方でいただく暮らしです。
「今、山や自然の中に入れば何が採れるだろう。」
そんな季節の恵みを見つける楽しみがあります。
そして、その豊かな食文化を支えているのが、安定した食材を生産する農業です。
自然の恵みと、農業の恵み。
その両方が食卓に並ぶ社会です。
生態適合農業という通過点
命を大切にしたい。自然をより良くしたい。人は自然の一部だと気づいた。
そう考えた人の多くが、農業という分野に行き着くのではないかと思っています。
病気を減らすには自然破壊を止めなければならない。自然から遠ざかる社会では、病気は増える一方です。
その解決策の一つが、生態適合農業です。
この農業を経由することで、薬に代わる食が生まれ、あらゆる生きものと共生できる社会に近づき、豊かさを食文化に組み込むことができる。そんな未来に向かっていくのではないかと思っています。
やればやるほど自然が豊かになる
私は、いのちを大切にする文化を育てたいと思っています。
そのために、自然をフィールドに農と食の分野で取り組んでいます。
社会に対して問題や課題を感じている人も多いのではないでしょうか。
こうしなければならない。これは問題がある。やりたいけれど、何かを犠牲にしてしまう。
そんなふうに追い詰められていませんか。
私が提案したいのは、「やればやるほど」という発想です。
そんな農業のあり方です。
いまは、やり方が分からなくてもいい。技術や経験の積み重ねが力になります。
そのベクトルを持っていれば、やり方が分かる時が来る。
100年後の未来では、食材の半分は農業から、もう半分は近くの自然から。
そんな社会になっているのではないかと思っています。
やり方は、まだ分かりません。
けれど、その未来の方向は見えている気がしています。
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